南米・ペルーごはん日記 vol.02【ラテン的 元気ごはん】

2011年10月9日 category:

第2回東京ごはん映画祭 特別上映作品ペルーの食映画『Cooking Up Dreams』ラテン系サポーター、ペルー現地にいるFood Lovers・仲宗根ゆうこさんのペルーごはん日記です。

日本の裏側・南米ペルー。
映画『Cooking Up Dreams』にも描かれていますが、食文化が多彩で豊かな国。
ラテンなノリで、食べることが大好きなペルーの人々の日常をちょこっとのぞいてみたいと思います。
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【ラテン的 元気ごはん】

「うまい料理見つけたよ!土曜日のスダード(魚料理)、食べに来るしかないでしょう!」とペルー北部・フェレニャフェで遺跡調査中の食いしん坊考古学者松本剛さんからのおいしいお誘い。行くしかない。一週間後、深夜バスに乗り込みリマから北へ12時間、チクラーヨを経由してフェレニャフェに到着。ここはシカン文化の遺跡で知られる小さな田舎町だ。

ペルーに来て一年が過ぎ、忙しく観光スポットを巡る旅に満足できないものを感じていた頃、剛さんの土器研究プロジェクトでアシスタントを探していると聞いて、飛びついた。住んでその土地を知る、いい機会だ。ひと月ちょっと住んでみた。
道ばたで「タマーレス!タマーレス!(トウモロコシ料理)」と低い声で客寄せするタマーレス売りのおばさん 、モトタクシー(三輪車タクシー)ドライバーに必死で交渉した50センティモ(15円)の駆け引き、全てがなつかしい。

でも、追想に浸っている場合ではなかった。「土曜のスダードはまずサッカーから」と、早朝、剛さんに連れられて行った小さなサッカー場。土曜日恒例フェレニャフェ・サッカーチームの試合が始まっていた。ん!? よく見ると、熟年、老年チーム?聞けば最年少48歳、最年長75歳。それにしても失礼ながらよく走る、蹴る、ヘディングする。なんなんだ、この元気っぷりは?と、驚くばかり。

土曜恒例サッカー試合

そして試合後、これまた恒例、メンバーのオヤジさん達行きつけの食堂へお伴。ここが旅の本命とおみうけする。といっても看板もない一見すると普通の民家。案内人なしではたどり着けない彼らの土曜限定ささやかな聖域。
店先にイスを持ち出し、車座になって宴を始めた。まだ午前11時だというのに。
飲んでいるのはビール瓶に入ったチチャ・デ・ホラというトウモロコシで作られた伝統的なお酒。この店の自家製ハウス・チチャだという。見た感じはヤクルト。一口飲んでみる。酸っぱい、甘い、まったり。かなりのくせ者とみた。でも、すぐに私の胃は馴染んだ。というか、胃も思考もこの場の雰囲気に早く馴染もうと努力したというのが正しいかも。ここの習慣でチチャ・デ・ホラを一つのグラスに注いで、一人が飲みほしたらそのグラスを瓶ごと右隣の人に渡して、まわし飲み。なんともワイルド。私もこの土地の習慣に従い、その輪に加わってみる。


チチャ・デ・ホラ


チチャ・デ・ホラの空き瓶


看板なき食堂でのチチャ宴(1)


看板なき食堂でのチチャ宴(2)

オヤジさん達はサッカー場で、よく走っていたけど、それだけじゃなかった。したたか飲んで、したたかしゃべる。そして女子を口説く事も忘れない。どいつもこいつもさすがのラテン・スピリッツ!フェレニャフェの春の陽射しのせいか、チチャ・デ・ホラのせいか、なんとも、皆、肌艶のよろしいこと。グラスが車座の輪の中をぐるぐると時計と反対に回る。そして私の頭も 少々ぐるぐる・・・軽くボラッチャ(スペイン語で“酔っぱらい”)。

小腹がすいた頃、タイミングよく念願のスダード登場。魚を炒め煮した赤みをおびた料理。スープを一口いってみる。 辛み、微妙な甘酸っぱさ、そしてコク。もうこれ以上は表現不可能。「¡ケ・リコ〜!(おいしい!!)」しか頭に浮かばない。食いしん坊考古学者が興奮して連絡してきたのも納得。

こしらえるのは女将セニョーラ・ネリー。ぽっちゃり体型にノースリーブ。陽気で、酔っぱらい客を鼻先であしらう様は小気味好い。さすが南米の母ちゃん。彼女に スダードの作り方を教わった。
その日市場に出る新鮮な魚(アジやサバ)に下味をつけ、深鍋で魚、タマネギ、トマト、黄色い唐辛子を炒め煮した後、シバリータという赤く独特の香りを放つスパイスを足し、仕上げにみじん切りしたコリアンダーを散らす。
そしてついに、うまみの素を発見!心の中で小おどりしてみる。実は、魚に下味を付ける時、液体をすり込んでいたのだ 。それこそがうまみの素、ビナグレ・デ・チチャ。お酒のチチャ・デ・ホラを一ヶ月寝かしてビネガー化させたもの。

スダード(魚の炒め煮料理)

ビナグレ・デ・チチャがないとこのうまみは出せない。ノルテーニャ(北部の人々)のキッチンの必需品。と、セニョーラ・ネリーは話してくれた。さらに、念を押して「すごく体が元気になるのよ」と。なるほど、あのエネルギッシュの素はこれだったか。

南米の母ちゃんセニョーラ・ネリー

「チチャが元気とうまさの秘訣だったんだね。」とオヤジさん達に伝えたら、目を細めて「シー、シー(そうそう)おまえ、わかったのか!」と大喜びしてくれた。ペルー人は、“おいしい”を共有した時、高揚して何ともいえない悦楽の表情を浮かべる。私はそんな彼らの表情が見たくて、いつもペルー人の食の輪にダイビングしているような気がする。

チチャを享受する土曜の昼下がり、ゆるく豊かな時間をもらった。
そういえば宴の最中、私を口説いていた最年長75歳のマヌエルじぃさんが一番ギラギラしていたっけ。

 

Peruより。文・写真:仲宗根ゆうこ Yuko Nakasone

ペルーごはん日記vol.3へ、つづく。

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■映画『Cooking Up Dreams

ペルーの食文化を愛する人々と、その食の原点を探っていく。
「世界へ向けて、食で国(ペルー)を元気にしていく!」という希望あふれる姿が描かれている。また、ペルーは地震国で、2007年ピスコ地震後に一丸となったシェフたちの姿に、3.11東日本大震災後の私たち日本人も共感の念を抱き、元気をもたらしてくれるはず。
また、ペルーの食文化の奥深さと可能性も見逃せない。じゃがいも、トマト、唐辛子の起源といわれるペルー・アンデス一帯。世界の食のルーツがここにある。山、海、川、ジャングル、様々な気候風土を持ち、移民も多いペルーは食材も食文化も多種多様!おいしいペルー料理は、欧米でも大人気である。
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