南米・ペルーごはん日記 vol.04【国民食・セビーチェは「太陽ごはん」】

2011年10月21日 category:

第2回東京ごはん映画祭 特別上映作品ペルーの食映画『Cooking Up Dreams』ラテン系サポーター、ペルー現地にいるFood Lovers・仲宗根ゆうこさんのペルーごはん日記です。

日本の裏側・南米ペルー。
映画『Cooking Up Dreams』にも描かれていますが、食文化が多彩で豊かな国。
ラテンなノリで、食べることが大好きなペルーの人々の日常をちょこっとのぞいてみたいと思います。

今回vol.4は、映画にも登場するペルーの国民食で、今や世界中で人気のメニュー『セビーチェ』についてです!

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ペルーを訪れた外国人がまず洗礼を受けるのがレモンだろう。

とにかく、酸っぱい!酸っぱい!酸っぱい!のだ。

鮮やかなみどりで、サイズ・形はピンポンだま。
レモンの断面

その酸っぱいレモンが決め手の代表格がセビーチェ。

基本は、鮮魚を塩でしめ、レモン果汁にひたし、赤タマネギやアヒ(しびれる辛さの唐辛子)、クラントロ(コリアンダー)などであえた料理。rocoto  かなり辛い唐辛子


cebichería セビッチェリア  (La Mar)   セビーチェ・クラシコ

cebiche  セビーチェ    batan grande バタングランデ(北部)

Cebiche セビーチェ   Lima リマ

その土地土地によってもいろんなスタイルのセビーチェがある。リマ近郊のカヤオ名物は魚のセビーチェと揚げた魚貝をのせた一皿二度興奮の一品。標高3850メートルの海のないプーノではティティカカ湖でとれたマスのセビーチェ。山岳のカハマルカではサバの干物でこしらえる。そして私の大好物でもあるコンチャス・ネグラスは北部で獲れる黒貝を使った黒いセビーチェ。脇に添えるのは、大きいトウモロコシとサツマイモ(だいだい色)が定番だ。


conchas negras コンチャス・ネグラス    Lima リマ(Punto Azul) 2010年撮影

セビーチェは刺身に慣れ親しむ日本人の口には間違いなく合う。

もちろんペルー人も大好きだ。ペルーの文化遺産に指定され、セビーチェの日(6月28日)まであるほど。

 

セビーチェは“太陽の昇っている時間に食べる”のがペルー人の流儀。これは、冷蔵庫のない時代のなごりで、新鮮な物は新鮮なうちに食べる!が基本なのだ。

インカ時代、太陽信仰のあったペルーにふさわしい“太陽ごはん”である。

だから、職場でも午前中は「今日のランチはセビーチェ食べよう!」と、朝からごはんの話?と思うのだが、これは日常、ほんのあいさつ代わり。

セビーチェを売りにしているお店はセビッチェリアと呼ばれ、セビーチェ1本勝負の店や魚介を使った多彩な料理を出すお店、そしてレストランタイプ、市場タイプ、露店タイプ(鉄胃袋の私でもちょっと勇気がいる)がある。

また“太陽ごはん”であるがゆえ、12時から夕方4時頃まで(ペルー人のランチは1時から2時くらいからスタート)のランチ営業。


cebichería  露店セビーチェリア

私のお気に入りのセビッチェリアはサン・イシドロ地区にある“Punto Azul(水玉という意味)”。ここは12時前から行列をなしている。そして、太陽を浴びながら食べるオープン・エアの席と、室内カウンター席があり、窓から料理人がセビーチェを作っている様子がのぞき見できる席が、私にとっての特等席だ。

酸っぱ辛い中毒になるセビーチェ。思い出すだけで梅干し顔になる。


レモン絞り器使用中

窓際カウンター特等席

cebichería セビッチェリア   Lima リマ(Punto Azul)

また、セビーチェはおいしいだけじゃなくておもしろい。私とセビーチェの出会いは、海の近くのミラフローレス地区のセビッチェリア。食べる時、フォークとなぜかスプーンが出てきた。そして常連客のペルー人が「このスプーンでフーゴ(汁)を飲みなさい!」と言うのだ。そう、セビーチェのあえた汁まで飲みほせと。汁は魚介のゆで汁に塩、レモンで味を整えたものなんだけど、なんとその汁だけのレチェ・デ・ティグレというメニューまでもあるのだ。どんだけ好きなん?と、初対面のセビーチェはかなり刺激的だった。

レチェ・デ・ティグレ(セビーチェの汁の料理)

そして私の友人のペルー人は、レチェ・デ・ティグレとアロス・コン・マリスコス(魚介の炊き込みごはん)を注文し、一口、レチェ・デ・ティグレでのどを潤し、残りをアロス・コン・マリスコスにかける。ちょっと通な感じがして、最近では真似たりしている。

cebichería セビッチェリア  (La Mar)   アロス・コン・マリスコス・ノルテーニャ(北部の魚介炊き込みごはん)

 

セビーチェもさることながらついでにご紹介したいのがレモン絞り器。

みどり色のピンポンだまにぴったりサイズの鉄製の絞り器で、フォルムと重量感がほのぼの系。どの家庭でもキッチンの必需品。

レモンはスダチや沖縄のシークァーサーと同じくらいの大きさなので友達や沖縄の家族にはぜひ、お土産に買って帰ろう。

レモン絞り器

 

そして先週の日曜日に飛び込んだ朗報!

南米最大の食の祭典Misturaを記録したアメリカ制作のドキュメンタリー映画“Mistura,The Power Food”がニューヨーク・フード・シネマ・フェスティバルで最優秀短編映画賞を受賞!!

Feliz!(おめでとう)

ペルー料理、まだまだ勢いは止まらぬ!

 

受賞を記念してさっそくセビーチェを食べに行くことにした。せっかくなので映画“Cooking Up Dreams”に登場するペルー料理界を牽引するガストン・アクリオ氏のセビーチェリア“La Mar(海)”で真っ黒いセビーチェ、コンチャス・ネグラスを注文しよう!

と、勢い勇んでいったものの、コンチャス・ネグラスはメニューにはなかった。

お店のスタッフに尋ねると、実は、乱獲が原因で黒貝が絶滅に瀕しているのだという。

しかも、「黒貝を食べることをやめよう!」と、大旗を振っているのがガストン・アクリオ氏だった。

首都リマにいるとこの国が発展途上国であるということをつい忘れがちだが、地方に行くと格差を感じる。

“売れるから獲る”というモラルの問題は黒貝に限らず山積している。まだまだ発展途上なのだ。

でも、新時代のうねりのまっただ中にある料理界が将来を見据え、率先して人気の「黒貝を食べるのをやめよう!」という声は、「ペルー料理ばんざい!」と、浮かれ気分の私へも苦言の言葉のようにも聞こえた。

そういえば、この映画祭のテーマは“人と食のつながり”だったね。人と食がいい関係でいられるのは人間次第なんだろうなぁ。

cebichería セビッチェリア  (La Mar) 2

cebichería セビッチェリア  (La Mar)  レチェ・デ・ティグレ

もうすぐ南半球の夏がやって来る。クリスマス、ニューイヤー、そしてバケーションシーズンの到来。

ラテンの血が踊りだす季節。

セビーチェは一年中食べられるけど、やっぱり夏がよく似合う。なんといっても“太陽ごはん”だから。

 

さぁ、お昼だ。

セビーチェを食べに行こう!そして汁まで飲みほそう!

 

Peruより。文・写真:仲宗根ゆうこ Yuko Nakasone

ペルーごはん日記 終わり。

ありがとうございました!

vol.3へ

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■映画『Cooking Up Dreams

ペルーの食文化を愛する人々と、その食の原点を探っていく。
「世界へ向けて、食で国(ペルー)を元気にしていく!」という希望あふれる姿が描かれている。また、ペルーは地震国で、2007年ピスコ地震後に一丸となったシェフたちの姿に、3.11東日本大震災後の私たち日本人も共感の念を抱き、元気をもたらしてくれるはず。
また、ペルーの食文化の奥深さと可能性も見逃せない。じゃがいも、トマト、唐辛子の起源といわれるペルー・アンデス一帯。世界の食のルーツがここにある。山、海、川、ジャングル、様々な気候風土を持ち、移民も多いペルーは食材も食文化も多種多様!おいしいペルー料理は、欧米でも大人気である。
■上映スケジュールはコチラ

■ペルーの代表料理『セビーチェ』をアメリカでトレンドメニューに育てた立役者。松久信幸シェフ(NOBU、Matsuhisaオーナーシェフ)の動画メッセージも合わせてお楽しみくださいませ★

[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=VPkgTaFK490&feature=channel_video_title[/youtube]


松久信幸シェフ(NOBU、Matsuhisaオーナーシェフ)

日本で修業後、ペルーへ寿司職人として渡り、その後、アメリカ・LAへ。94年俳優ロバート・デ・ニーロ氏の誘いに応えNOBU New Yorkを開店。世界へ日本食とスシブームを広めた第一人者。ペルーの代表料理『セビーチェ』をアメリカでトレンドメニューに育てた立役者。
http://www.nobutokyo.com/chef/

ペルー観光親善名誉大使/全米ベストシェフ10人(Food & Wine誌)/”Asian’s Heroes”(米TIME誌)/農林水産大臣賞を受賞/”過去10年もっとも活躍したシェフ11人”(マドリード・フュージョン)